自らは罪を犯していないのに、東京高等裁判所の被告人席に座ったこと

自らが犯罪を犯して裁判所に出廷することは当然のことですが、事件によっては個人の事件ではなく法人やその従業員の関係する事件があります。

このような事件の場合は個人である会社の従業員に加えて、刑法上の「両罰規定」の定めにより法人である企業は、代表者(代表取締役)の出廷が求められます。

当然のことながら会社としては「会長」や「社長」といった代表者が出席する必要があるのですが、まさかその人たちをを出席させるわけには行きませんので、だれか適当な人物を代表者の代理人として出席させる必要があります。

その時たまたま私は総務部門の責任者でありましたので、やむを得ず「会社代表者」の代理人として出廷せざるを得ませんでした。

通常の裁判は地方裁判所がが第一審となるのですが、私の関係した事件の場合は、事件の性質上「第一審」が東京高等裁判所となりました。

担当される裁判官も5人(通常の事件では3人)という大法廷で行われることになり、しかも被告人数が個人と法人の代理人も含めて13人という大人数の裁判となりました。

通常の刑事事件の場合には被告人の数は、一人かせいぜい数人のことが当たり前なのですが、被告人が法人代表者の代理人も含めて13人もいたので、法廷の中で被告人席は大きな場所を占めていました。

たまたま当時世間を騒がせていた事件が、同じ場所にある東京地方裁判所で開かれていました。

その裁判で主犯格の被告人が被告人席で「居眠り」をしているのが話題になっていたこともあり、私どもの事件では裁判官に悪印象を与えないように、部下からは間違っても被告人席で「居眠り」をしないようにとくぎを刺されていました。

こちらの公判はもともと本格的な殺人や強盗といった刑事事件ではなく他の法令違反による事件で、ある意味形式犯でそれほど複雑な事件ではなかったため、それほど裁判に日数をかけずに午前と午後の2回に分けて開催される比較的短い期間の法廷でした。

午前中の裁判ではさすがに眠くなることはありませんでしたが、基本的には裁判でそれほど緊張することもなかったので、午後は退屈なこともあり結構「あくび」が出ることもありました。

傍聴席にいた部下からは「それでなくてもあなたは人相が悪く裁判官の印象が悪いので、決してあくびや居眠りなどしないように」という注意を受けました。

そのためやむを得ず2回目の公判からは、当時受験生の眠気予防のために販売されていた「オールP」という眠気予防のドリンク剤を飲んでいました。

このおかげもあって公判中に眠気を催すことはありませんでした。

加えて関係者からも「オールP」を服用したかというチェックも受けましたので2回目からは必ずこのドリンクは飲んでいました。

その東京高等裁判所の公判の過程で特に記憶に残っていることは、なにしろ被告人席はいっぱいであったことから普通には経験できないであろうことがいくつかありました。

一つ目は裁判の過程でたまたま私の上司が、被告人となっていた営業責任者の情状証人として証言する機会がありました。

何しろ被告人が私のような法人の代理人も含めて13人を数え、法廷の場所が狭いため証人の証言席が私のすぐ横にありました。

私も法廷の中でじっとしている以外にやることもなかったこともあり、別に「ごますり」というのではなく暇に飽かして上司が証言する席の椅子を引いてあげたとという普通では経験でできないことことがありました。

二つ目は法人の被告人は3社ありまして、当社以外の会社の弁護人の方が今でも時々テレビに登場される有名ないわゆる「やめ検」の弁護士さんでした。

この方が結構おしゃれな方で、私の席の横にある「証言席」で高級そうな背広のポケットに手を入れながらの気取った格好で法廷に立っておられたのものも記憶に残っています。

三つめはもう1社の犯罪内容の立証の時に、検事が「証拠を示します。」として、検察が押収したその会社の担当者の手帳を示しながら供述していましたが、私の席からその手帳の内容が丸見えで、本当にこれでいいのかと思いました。

最後に法廷についての印象ですが、「官尊民卑」というか「お上の裁判」という印象を強く持ちました。

たまたま高等裁判所の大法廷で行われ、5人の裁判官という大人数のせいもあったかもしれませんが、法廷の上の段から如何にも「お上」という立場から裁いてやるという威圧感がありました。

しかも、裁判官が座っている席も一段と大きな椅子です。

これは「弁護人の椅子」はもとより、同じお上である「検察官」の椅子よりも大きいのです。もちろん私たち被告人の椅子は当然かもしれませんがもっと小さいパイプ椅子のような小さい椅子です。

確か、テレビドラマで見る限りではアメリカの法廷などはもっとフラットだったような気がします。

あえて上の立場から見て威圧的に裁判するよりも、フラットな位置から事件の判断をする方がより裁判の公正さを保てるのではないかと思ったのが法廷に被告人として座っていたものとしての素直な感想です。

しかし自分では悪事を犯していないのに、法廷で「被告人席」に座れたというのは本当に貴重な経験だったと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です